Jun, 2000 << - INDEX - >>

私は死んでいる夢を見ました。死に到るまでのドラマではない。もう死んでいる。死体。布団にねかされている。死んで体温27度の世界にふみこんだというところで尿意をもよおす。意識は早朝のお風呂に浮く埃のように薄く、からだは冷たくて重い。しかし垂れ流しにはしない長年の生活習慣に従い、硬くて鈍い身体をなんとか立ち上がらせる。 立ち上がった。
 そこは、自分の部屋であるということになっているらしい、見覚えのなくはないある部屋である。深呼吸のようなもの(実際には横隔膜は重いばかりでほとんど動かない)を心がけながら歩こうとするが、歩くどころか、首はがっくりうなだれて、棒立ちになったまま体の向きを変えることすらままならない。いま人が来て見られたらゾンビだな、などと考えている。
部屋の大きさは正常だし、身長の感覚も生前とおなじなのに、床がずっと遠く下に見える。眼球が縮んだせいかもしれない。このまま再び布団に倒れこんで、出してしまおうかとも思う。もう死ぬのだし、かまわないだろう。きっと、はねのけられた布団と、そのの上に倒れている僕の死体と、流された尿を見て人々は、ああ、死後排尿で、トイレに行こうとして叶わなかったんだな、などと低い声で囁き合うだろう、などと考えている。それから方針をやや変更して、手近なところにビンか何かないかと考える。あとで机の上に遺されたガラスビンを発見した人は --そのころ僕の意識は完全に機能することを止め永遠に失われているだろう-- ああそうか、などとと思いながら神妙な顔つきで冷めたビンを片づけるのだろうな、などと考えるが、適当なビンを捜そうにも、首がもちあがらない。それからまた思い直して、やはりがんばってトイレまでいこう、トイレから戻ってこられるかしら、などと考えながら再び苦闘しているうちに目がさめた。 ふらふらしながらトイレに行く。